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犬神狂介の【狂人日記】

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金庸

●作家。「中国武侠小説の巨人」と称される。
中国でその名を知らぬ者はいない、国民的大作家である。
何がそんなにスゴいのか?というと…その全ての著作が映像化され、更に同じ作品が何度もTV化され、色々な役者が役に挑み、その演技でその役者の技量が試されるのだ、とさえ言う。日本でそのような作品というと、『忠臣蔵』『四谷怪談』くらいだろうか?現代に於いても、過去に於いても、日本には金庸のような作家は存在しない。が、あえて例えるならば…『南総里見八犬伝』の滝沢馬琴や、国枝史郎、ひょっとしたら、山田風太郎に近いかも知れない。コミックで言うならば…そう、地位的・評価的には、梶原一騎が一番近いだろう。作品のテイストという意味では…原作・雁屋哲/作画・池上遼一の名作『男組』や『男大空』に、かすかにその影を見る事が出来るかも知れない。
●日本で紹介された金庸原作の映画は『スウォーズマン』、『カンフーカルトマスター/魔教教主』、『楽園の瑕』、TVドラマ『射ちょう英雄伝』があるが、それらを見て、金庸を知ったつもりになってはならない。俺の印象からすると、これらの作品は、みな、金庸の作品の魅力のごく一部を伝えているに過ぎないか、もしくは失敗している。どちらかというと、既に金庸ファンの人が「外伝」的な楽しみとして見るべきものであろう。従って、真に金庸の魅力を知りたくば、実際にその著作に触れる以外に方法はない。ゲームやコミックにもなっているが、それらも同様である。
●ジャンルとしては、「江湖もの」と呼ばれる(日本で言うと「時代もの」「任侠もの」「忍者もの」あるいは「伝奇もの」に近いかも知れない)大衆文学で、12の長編と3つの短編を書き、突然、筆を折ってしまう。(最近、「次回作を構想中」という発言があったようだが、詳細は不明。また、その作品の頭文字を並べると「飛雪連天射白鹿、笑書神侠倚碧鴛」という美しい対句になるらしい)
●「武侠小説」とは、カンタンに言うと、いわゆる「英雄譚」である。時代的には、過去という設定で、特定の地域に「江湖(俗社会のルールには縛られない、自分たちだけのルールのみに縛られている、任侠のようなもの)」の集う「武林(武道界?とでもいうようなもの)」という世界があり、日夜、武道に励んでいる。修行によって「内功」を積むと、超人的な力が得られる…という架空の物語である。
●金庸という作家の特異性は、その「トンデモ度」にある。1冊目を読み終えても、まだ主人公が出て来なかったり、「武侠小説」なのに主人公がいつまでたっても強くなれなかったり…。はっきり言って、通常の小説のセオリーは通用しない。が、実際に読んでみると、コレが型破りに面白いのである!言わば、全作品が望月三起也が『ワイルド7』でやって見せたような荒業なのである。
●よく、「マンガ家は、デビュー作が一番面白い」と言うが、それは最初はセオリーなど知らないから、自分の「面白い」と思う本能だけで描いているからなのである。ベテランになって、色々とテクニックを知ってしまうと、そんな命綱なしの綱渡りなど、誰もしなくなる。
それを全作品で行ない、しかも成功させた金庸という作家は、おそろしいまでに理知的で、かつ信念を持ち、しかも「何が面白いか?」を常に見失わないセンスの持ち主である。
だったら、セオリーもくそもねぇ~。面白いモンが勝ちである。
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by inugami_kyousuke | 2005-07-30 10:14