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犬神狂介の【狂人日記】

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童子ローランド、暗黒の塔に至る【風間賢二訳】

童子ローランド、暗黒の塔に至る
ロバート・ブラウニング作
風間賢二訳の『童子ローランド、暗黒の塔に至る』が、『ダーク・タワー』最終巻の巻末に載っていた。
コレって、あんまし有難くねーよな~。
どーせなら、第1巻の巻頭に載せてくれりゃイイものを…

「恐れるにたらじ」って何だよ!?
前後が文語なんだから、とーぜん「恐(畏)るるに足らず」だろ?
それに、「じ」っつー助動詞はよ~、「打消しの推量」だから、
「恐れるにたらじ」だと、「恐れるに足りないだろう」って意味になっちまうんスけど~?
「だろう」って何だよ?「だろう」って…
文語と口語がチャンポンになってんのはまだしも、
言葉として、根本的に、日本語自体が間違ってんのは致命的じゃねぇ~のか!?
それとも…
まさか、「恐れるニタラジ」じゃねーよな!?
ニタラジって何だ?
それに…オイッ!!
「持ち来たりたのか」っつーのは、ひょっとして、「持ち来たりしか」って意味か?
「来たりた」?って、何だそりゃ?
一体、どーゆう日本語だ?誰か教えてくれ。
ひょっとして…ハイ・スピーチ語だったりして!?

よく、翻訳作業で行われるのは…
実際に訳してんのはチームなのに、翻訳者名義は個人となってる場合、
よーするに、学生とか弟子とかを使って、一気に訳させて、本人は最後にソレを軽くチェックするだけ…
ってパターンがある。
そのチェックが甘かったり、
(あり得ねー話だが)無かったりすると、
主語がヘンだったり、
言い回しが途中で変わったり、
結果、日本語として、トンデモな翻訳文が出来上がるのだ。



I

我が最初に思ったのは、やつの言葉は片言隻語も嘘ばかり。
その年老いた脚萎(な)えは、悪意に満ちたまなざしで
 我をじろりと見て推し量る。自分の虚言の効果はいかばかりかと。
口をすぼめ、唇に皺を寄せるも、
 してやったり、もうひとり獲物を手に入れたわい、
 そうほくそえむ喜びは隠しえぬ。

II

やつはいったい何のため、杖を手にして立っていた?
そこで待ち受けるやつの姿を見て、道を問うすべての旅人を
 嘘で罠にかけること、そのほかに、どんな目的がある?
我は推察した。髑髏じみた笑いが起こり、
 やつの杖が戯れに、我が碑文を
 土埃だらけの大道に刻むのを。

III

そんな事態を招来するは、我がやつの勧告に応じ、
 道をそれて不吉な場所へ、<暗黒の塔>の隠れ聳えている広大な地域へ
 足を踏み入れたならばの話。にもかかわらず、おとなしく、
 我はやつの指し示す方角へ進んだ。誇りでも
 希望でもない。目的を見出し、我が心をもう一度熱く燃え上がらせたのは。
なにやらそこが終着点やも知れぬといった喜びがあるばかり。

IV

それというのも、世界中を広く放浪したためか、
 長い歳月探索してきたためか、我が希望は
 亡霊のように痩せさらばえ、成功の暁にはやってくる
 抑制のきかぬ歓喜には、とうてい耐えられそうもなく、
 また、事を成就する見通しは暗いと思いながらも、
 我が踊る心を叱咤する気にはなれなかった。

V

臨終まぎわの病人が、まさに息絶えたかのように見えたので、
 涙が溢れきたり、頬を伝い落ち、友人同士互いに別れを告げていると、
 ひとりが他のひとりに、外に出て思い切り深呼吸をしなさい、
 (すべては終わったのだから、
 いくら嘆き悲しんだところで死者は甦らない)
 と言うのが聞こえる。

VI

どの墓の近くだったら、
 この死骸を埋めることができるのか、
 運び出すのはいつの日がもっともよいのだろう、
 旗、喪章、旗竿などをどうするかと気遣わしげに話し合う、
 そうした声をすべて耳にして、臨終まぎわの人は切に願うのみ。
 かような愛情を辱めたくはないと。かくて、かれは生きのびる。

VII

といったしだいで、我はこの探索の長い苦難を受けてきて、
 失敗に帰すとの予言を繰り返し耳にしながらも、
 行動をともにした”一団”のひとりとして、
 つまり我が何度も名前を連ねた、<暗黒の塔>探索騎士団
 ━━かれらの探索行は最良のものでありながら失敗に終わったわけだが、
 したがって、いまの我が疑念のすべて━━は我にふさわしいものかということ。

VIII

ゆえに、我は絶望にも似た静寂をもって、忌まわしい脚萎えに
 背を向け、やつのいる大道を離れ、
 指し示された小道へ入った。その日一日は、
 物寂しいこときわまりなく、薄闇は
 濃くなりまさっていったが、その気味の悪い赤い流し目で、
 さまよえるものを荒地が捕えるさまを見た。

IX

見よ! 我が大平原に一足二足踏み入れ、
 そこの人質になったと気づき、
 立ち止まって背後を振り返るやいなや、
 あの安全な大道は消えうせ、まわりは灰色の荒地。
地平線の果てまで荒地があるのみ。
前進できるかどうかわからぬが、それしかほかに手立てはなかった。

X

そこで我は進んだ。思うに、我は
かくも飢えて下劣な自然を見たことはなかった。なにひとつ生えていなかったのだ。
花々は言うまでもなく━━杉の木立さえも!
雑草の類は自らの生の法則にならい、
 なにも恐れることなく繁殖するだろう、
 と思うかも知れんが、そんなものでもあればたいしたお宝もの。

XI

何もない! 貧窮と怠惰としかめ面が、
 なにやら奇妙な配分によって与えられた、荒地の取り分だった。
「見よ、さもなくば、目を閉じろ」自然は不機嫌な口調で言った。
「役立つものはなにもない。わしにはどうすることもできない。
 最後の審判の火のみがこの荒地を清め、
 土くれを灰になるまで焼き、わしの囚われ人たちを解放する」

XII

ぎざぎざした薊の茎が他の草花より
 ひときわ高く突き出ていたとしても、その頭は切断されていた。
さもなければ、イネ科の雑草がねたんでいただろう。なにが広葉の雑草の
 ざらついて黒ずんだ葉に穴や裂け目を開け、
緑になろうとする希望を妨げたのか? それは獣にちがいなく、
 葉の生命を踏みにじったのは、獣なりの意思による。

XIII

雑草はと言えば、それは皮膚病患者の髪のよう。
干からびてか細い葉h、
 血でこねたような泥土に突き刺さっていた。
痩せ老いさらばえた盲目の馬が
 どのようにしておの地にやってきたのか、呆然と立っていた。
 役立たずとなって、悪魔の厩から追い出されたのだ!

XIV

生きているのか? 見たところ、死んでいるようだ。
その馬は、赤くて痩せ衰えた、瘤のついた首を伸ばしていた。
目は錆色のたてがみの下で閉じられている。
かような悲哀に彩られた怪奇は世にもまれなり。
かくも忌まわしい獣は目にしたことがない。
かような苦悩に値する悪罵に相違ない。

XV

我は目を閉じ、その目を我が心に向けた。
戦いの前に一杯の酒を求める男のように、
 我は若かりし頃の仕合せな情景を請いしのち、
 我が任務を果たすことができるようにと願った。
まず頭を使え、しかるのち戦え、それが兵法なり。
過ぎし日をひと口味わうことにより、すべて仕切り直される。

XVI

いや、そうではない! 我はカスバートの金髪の巻き毛に縁どられた
 赤面した顔を想い起こす。
いとしい仲間、あやつが我をしっかりと
 抱きしめるのを感じたが、
 それがあやつのいつもの仕草だった。ああ、ある夜の破廉恥きわまる行い!
我が心の新しい炎は消えて冷たくなった。

XVII

そしてジャイルズ、誉の権化━━初めて騎士になった。
 十年前と同じく、あやつは素直にそこに立っている。
正直ものがやれることなら、何でもやってみせる、とあやつは言った。
立派だ━━が、場面は変わって━━なんと!
あやつの胸に死刑宣告の羊皮紙を貼り付けたのは、いったいどこぞの絞刑吏か?
仲間の騎士団は、その宣告書を読み上げ、哀れな裏切り者に唾と呪詛を吐きかけた。

XVIII

現在のほうがそんな過去よりましだ。
ゆえに、暗くなっていく我が小道へ、ふたたび戻った!
物音はいっさいなく、懸命に目を見開いても何も見えぬ。
夜がやがて送って寄こすのは、梟か蝙蝠か?
我はたずねた。この不気味な荒地に何かが現れるとき、
 我の思考を捕らえ、その流れを変えるのかと。

XIX

だしぬけに、行く手を小川が横切った。
予期せぬ蛇の出現にも似たり。
この薄闇にお似合いの緩慢な流れなど、恐れるにたらじ。
泡立ち流れるこの小川、
 悪鬼の真っ赤に燃える蹄(ひづめ)を浸すのにちょうどよい━━黒い渦巻きが
 激しく泡立ち、水しぶきを飛ばしているのを見れば。

XX

ちっぽけなやつだが、それだけに底意地が悪い! 流れに沿って
 丈の低い貧弱な榛の木が膝を折って流れに覆いかぶさっていた。
しとどに濡れた柳は、無言の絶望の発作にかられ、まっさかさまに
 流れに身を浸し、さながら集団身投げのよう。
すべてのものに害をなしている小川は、
 そ知らぬ顔して、微塵も妨げられることなく、流れ去った。

XXI

その小川の浅瀬を歩き渡ったさい━━これはしたり、
 死者の頬を踏みつけたかと思え、
 一足ごとに、もしくは、深みを探るために突き刺す槍に
 死者の髪や髭がからみつくかと思われた!
 ━━おそらく槍が貫いたのは水鼠かも知れぬが、
 うわっ! そいつは赤子のような悲鳴を放った。

XXII

嬉しかった、向こう側に辿り着いたときは。
今度はもっとましな土地だ、と思いきや、それはむなしい早とちり!
何者が争ったのか、どんな戦いが行われたのか、
 何者の野蛮な足が蹴散らして、
 湿地を泥の水たまりに変えたのか? 毒水の大桶に蝦蟇を投じたか、
 あるいは、灼熱の鉄の檻に山猫をぶちこんだかのよう━━

XXIII

このむごたらしい自然円形劇場での戦いは、そのような光景だったにちがいない。
ほかにも荒地はいくらでもあるのに、なぜにやつらはそこに封じ込められたのか?
そのおぞましい檻へ続く足跡はまったく見あたらぬ。
そこから出た形跡もなし。強烈な醸造酒が
 やつらの脳みそに作用したのだ、まちがいない。トルコの王が慰みに、
 キリスト教徒をユダヤ教徒にけしかけた、あのガレー船の奴隷たちのように。

XXIV

さらには━━二百ヤードあまり進んだところに━━なんたること!
いかなる悪行に用いられた拷問機械なのか、その車輪、
 もしくは、制動装置、そう、車輪ではない━━それは人体から絹を
 紡ぎ出すように引き裂く鋤なのか? 焦熱地獄の刑具に似たもの
 すべてを不注意にも地上に置き忘れたのか、
 それとも錆びた鋼の歯を研ぐために持ち来たりたのか。

XXV
やがて、切り株だらけのちっぽけな土地に着いた。かつては森、
 それが沼になったとおぼしい。だがいまは、手のほどこしようもない。
 荒地にすぎない(そのように、愚者は
 浮かれ騒いで創造しては、あとでそれを台無しにし、
 果ては心変わりで知らぬ存ぜぬ)。三十平方ヤードかそこらは━━
 泥沼、石塊まじりの粘土、砂、そして硬くて黒い不毛の地。

XXVI

眼前には、陽気さと不気味さとに彩られた混迷きわまる斑点だらけの地面、
 目を転じれば、苔か腫瘍のようなものを生じている
 痩せこけた土地。
やがて、中風病みの樫の木らいきものが生えているところに来たるも、
 その木には裂け目があり、まるで歪んだ口のように割れている。
あたかも死を呆然と見つめ、恐怖に萎縮しているうちに息絶えたかのよう。

XXVII

目的の地は、あいもかわらず遥かなり!
見渡すかぎりなにもなく、迫り来る闇があるばかり。
我が足取りを導き示すものは皆無! 思案していると、
 一羽の大きな黒鳥、悪霊(アポルオン)の親友が
 滑るように通過し、ドラゴンの翼のように巨大な翼は
 羽ばたきもせずに我が帽子をかすめた━━ひょっとして、我が求めた案内者か。

XXVIII

顔を上げると、夕闇が濃くなりまさっていたものの、
 荒地が消え、周囲を山々にかこまれていることに、
 なにがなし気づいた━━山と言っても、視界にぬっと聳えるは、
 醜怪な高み、土の堆積にすぎぬが。
いかにそれら高みが我を驚愕させたか━━解いてみよ、汝!
いかにしてそこから脱出するか、これは難問だ。

XXIX
にもかかわらず、なにやら我が身に災厄がふりかかる策略が
 仕掛けていることに薄々気づいた。それがいつのことかは神のみぞ知る「━━
 おそらく我は悪夢にとらわれたのだ。ここは行き止まり、
 この先、道はない、とあきらめた。
まさにそのとき、いま一度、カチッという
 罠が閉じられるような音がした━━気づけば、洞穴のなかだった。

XXX

パッと燃え上がるように、すぐさまひらめいた。
ここぞ目的の地! 右手に見える二つの小山、
 さながら角と角を組み合わせて闘う二匹の牡牛のよう。
かたや左手には聳える禿山がひとつ……うすのろ、
 耄碌爺め、肝心要の瞬間にうたたねをしおって、
 生涯をかけ、この光景を目にするため、修行を重ねたのに!

XXXI

中央に聳え立つは、塔そのものではないか?
 車座のごとく配置された小塔は、愚者の心のように暗く、
 褐色の石で築かれたその姿、比類なし。
世を通じ、嵐のいたずらな小悪魔はこんな具合に、
 船乗りを暗礁へ導き、座礁させる。
そのときにこそ、船材はたわみ、はずれるのだ。

XXXII

見えぬか? おそらく夜ゆえに?━━もちろん、
 そのためにふたたび昼になったのだ! 暮れゆく日は
 沈む前に、裂け目を通して真っ赤に燃えた。
小山は、狩りをする巨人のように横たわり、
 頬杖ついて、追い詰められた獲物を眺めている━━
 「さあ、突き刺せ、息の根を止めろ━━柄まで深く!」

XXXIII

聞こえぬか? あたり一帯に起きた騒音が! それは
 鐘のようにしだいに鳴り響いた。我が耳に、
 命を失ったすべての冒険者、我が仲間たちの名前が聞こえた━━
 どんなつわものも、どんな勇者も、
 そして幸運なものも、みな、すでに失われた、失敗した!
一瞬が積年の悲哀の弔鐘を鳴らした。

XXXIV

かれらの山腹にずらりと並び集い、
 我の最後を見物するさま、さらなる一幅の絵の
 生きた額縁のよう! 火の大海のなかに、
 我はかれらの姿を認めた。みな見知った顔ばかり。
にもかかわらず、決してたじろgことなく、我は真鍮の角笛を唇に当て、
 吹き鳴らした。「童子ローランド、暗黒の塔に至る」

by inugami_kyousuke | 2011-08-27 20:13 | 文学